トランスカルチャーがグローバルへの第一歩

トランスカルチャーがグローバルへの第一歩


水上印刷は「グローバルニッチトップ企業」に選出されているが、海外に拠点があるわけでもなく、海外から商品を輸入しているわけでもなく、現時点ではある意味典型的な日本のドメスティックな企業という括りに入るかもしれない。
しかし、海外からの視察は毎年定期的にあり、ニッチな市場ではシェア9割に上る製品がある。そして勿論、日本国内でお取引させていただいているお客様が海外に進出していることを考えると、今後はもっと海外との接点が増えることは間違いない。
そのときにどのようにグローバル化に対応したら良いか、グローバルでコンサルタント兼ファシリテーターとして活躍されている株式会社グローバルインパクト代表パートナーの船川淳志氏に話を伺った。

船川 淳志
船川 淳志
株式会社グローバルインパクト
代表パートナー
HP:http://www.globalimpact.co.jp/
-Profile-
慶応義塾大学法学部法律学科卒業。東芝、アリコ・ジャパン勤務の後、アメリカ国際経営大学院(サンダーバード校)にて修士号取得(MBA in International Management)。その後、米国シリコンバレーを拠点に組織コンサルタントとして活動。帰国後、グロービスのシニアマネジャーを経て、人と組織のグローバル化対応を支援するコンサルティング会社、グローバルインパクトを設立。NHK教育テレビ「実践・ビジネス英会話」の講師も務めた。
著書に『Transcultural Management』(米国Jossey-Bass出版1997年)、「ビジネススクールで身につける思考力と対人力」(日本経済新聞社、2002年)、「グローバルリーダーの条件」(大前研一氏との共著、PHP、2009年)、「そろそろ、世界のフツーをはじめませんか」(今北純一氏との共著、日本経済新聞社、2013年)、等多数ある。
(※https://www.ohmae.ac.jp/ex/english/
lecturer/funakawa.html
よりの抜粋)
遠藤 拓哉
遠藤 拓哉
水上印刷株式会社
ICT革新部次長
HP:http://www.mic-p.com/
-Profile-
大学卒業後、NTTデータに入社。流通業界向けのITソリューション営業の後、人材開発コンサルタントや公共・金融分野の人事人材開発のプロジェクトリーダーとしてグローバル人材等に携わった後、2016年1月水上印刷株式会社にICT革新部の部門長として参画。
「攻めのIT経営」とグローバル化を推進するため、社内ベンチャーさながらのスタンスでお客様や世の中への貢献と会社の成長に向けて旗を振る。
“情熱は世界をより素晴らしいものにできる”をテーマに情熱人にスポットをあてた本Digital Magazine「The PASSION」の共同編集長を務める。

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グローバルへの原体験

遠藤: 一番最初に、船川さんが現在の職に付くまでお聞かせ頂いてよろしいですか?

船川: 私は、シリコンバレーでコンサルト業界に入って、もう25年近くなりますが、サラリーマン経験が10年近くあるんです。最初は東芝。その後生命保険会社のアリコジャパン。このアリコジャパンは、私が居た時はトリプルAのグローバルカンパニーだということで物凄く伸びていた時なんですけど、私が今の仕事をやっているのはアリコジャパンが外資系企業の一日本法人だったことが関係しています。

遠藤: グローバルビジネスの原体験ですね。

船川: 日本の支社へニューヨーク本社からいっぱい人がやってきて、ローカルの現場が分からないのに言いたい事を言って帰っていく、という。その繰り返しを見ていて非常にフラストレーションが溜まりました。その上に、日本人のマネージャーがきちんと説明すればいいのに出来ていない。そうすると両者は意地悪でも悪意もないんだけど、結果的にミスコミュニケーション、ミスマネジメントが物凄く増大してしまうわけです。

遠藤: とてももどかしい場面ですよね。そのときどうされていたのですか?

船川: サラリーマンとして働いた10年のうち7年間をアリコジャパンで過ごしたのですが、物凄くフラストレーションが溜まり、先ず自分自身が勉強しないと無理だと思ったのでMBAに行きました。
グローバルコンサルタントになろうとは思っていなかったのだけど、そういう仕事はしたいなと。もしそういう仕事をするなら、日本を出て向こうの会社に、コネなし・名前なし・自分の実力だけで向こうの会社に入って仕事ができないと本物じゃない!みたいな変なこだわりがあったんです。

それで、シリコンバレーのコンサルティング会社に入って、そこからスタートしました。

遠藤: コンサルタント業をいきなり海外で始めるのはかなりのストレッチですよね。どんな領域をカバーされたのですか?

船川: コンサルティング、マネージメントって広いですけど、私がやらないのはお金のこととシステムのこと。これ以外はほとんど見てきました。専門としてやっているのは人と組織なんですけど、当然マネージメントですからね。

マーケティング分野における基本的なフレームワークで、大前研一さんという方が作られた3つのCのモデルというものがあるんですけど、これに4番目のCとしてコミュニティー(Community)が大事だっていうことを、堀新太郎さん(当時べイン・アンド・カンパニー日本代表)が仰った。今から24年前に3Cじゃない、4Cだと。これ非常に私はいいなと思いました。

そしてその4つのCに、私が足したのは、ひとつは4Cを繋ぐものとしてのコミュニケーション(Communication)、そしてもう一つはこれらのキャンバスに相当するカルチャー(Culture)です。私の著書、「Transcultural MANAGEMENT」の中でも提唱しました。

Transcultural MANAGEMENT

遠藤: フレームを更に広げたのですね。

船川: なぜカルチャーかというと、日本、アメリカ、という国のカルチャーだけではなく企業文化も含むのですが、目に見えないような曖昧模糊としたカルチャーっていうものが、企業やビジネスに大きな影響を及ぼすことに着目しました。私が関わったクライアントには、欧米のFortune Top 100企業と日本の大手企業などがいます。

92年頃から3Mと働いたことがあったんですけど、セントポールのミネアポリスにずっと行ってました。何故かというと、日本で合弁を組んでいる日本の大手企業がどうしたらもっと上手くコラボレーションできるかっていう案件を私はずっと担当してたんです。

先方からのリクエストはマルチカルチャーマネジメントをやってください、と。
この時私はハッピーでしたね。ついにこれが来たか、みたいな。だからそれでワークショップやったのが、1994年の1月。息子が生まれて3週間も経っていない頃。で、その世界的メーカーを見ていると。あの頃はトランスナショナルカンパニーを目指すという意味で屈指の企業だった。

グローバルへの原体験

ニッチな分野でグローバルトップ

遠藤: 印刷会社というのは、例えばPrinted by水上印刷というように外へ名前は出ていないのですけど、世の中の黒子として情報の伝達に一役買っているし、グローバルでも役に立ちたいと思っています。ドメスティック企業の典型である当社がいつかグローバル化していくためにいかにあるべきか、示唆を頂きたいです。

船川: 私、エレベーターで物凄く感動したんですよ。「KEEP CALM AND DREAM BIG」という言葉。

写真:KEEP CALM AND DREAM BIG

遠藤: ああ、弊社のエレベーターの壁にある言葉ですね。

船川: 「KEEP CALM AND DREAM BIG」。まさに遠藤さんが仰ったように、普段は黒子であると。で、決して一般的な消費財みたいに皆が目にするものではないと。正に「KEEP CALM」と。ところが、「DREAM BIG」というのは、おお、見事だなと。

普通エレベーターの中では静かにしましょう、とある。で、些細なことなんですけど、それでは面白くもなんともないじゃないですか。本当に、先ほどは僭越ながら、スマホで撮っちゃいましたよ。「KEEP CALM AND DREAM BIG」。

遠藤: ありがとうございます。他の場所にも似たようなワードがあるんですよ。

船川: センスがいい!

遠藤: 水上印刷はまだ、海外に拠点がありません。それから、海外にお客さんも今は居ません。ずーっと国内にお客さんが居て、国内に工場があって、国内にサービスや製品を提供します。にも拘らず、グローバルニッチトップ企業に選出されました。

船川: 何故なったんでしょう?

遠藤: 複写機の品質をチェックするテストチャート紙というものがあるんですけど、そのチャート紙を水上印刷が印刷していて、その水上印刷で印刷したチャート紙を使って複写機メーカーがコピー機の品質をチェックしているんです。

写真:ニッチな分野でグローバルトップ

船川: はー、凄いな。

遠藤: それが今、世界シェアの9割を超えていて、日本でいうとほぼ100%。

船川: やっぱり日本企業すごいね。

遠藤: 超黒子なんですけど、大手の複写機メーカーさんもお使いになっていたりします。

船川: 超黒子って格好良いね。

遠藤: はい、ニッチな黒子的な分野で、海外市場の開拓に取り組んで高いシェアを確保して、優良な経営を実践していますね、ということで「グローバルニッチトップ企業100選」に選ばれました。

超黒子企業

グローバルにおもてなし

遠藤: ただ、我々のお客さんはもう既に海外に出ているんです。コンビニにしても外食にしても。他の海外との接点としては、外資系企業とお付き合いがあるし、海外からの視察は21カ国170人ぐらい視察に来られます。国内の視察も合わせれば年間1000人くらいです。

船川: 年間1000人もくるの?

遠藤: はい

船川: Wow!で、その対応を…?

遠藤: 総務を中心に全社員でしています。色々な趣向を凝らしてお客様をおもてなししようとしているのですが、会長が繰り返し言うのは、おもてなしは皆でやるものだ、特定の誰かがやるものではない、と。

なので、工場の視察では、工場長を筆頭に工場のメンバーが英語でプレゼンテーションも案内もします。本社もそうですね、1人1人がって。

船川: それ実践されているのが凄いね。

遠藤: その甲斐もあってか、お客様と社員を大事にする企業ということで、「おもてなし経営企業選50社」にも選出していただきました。「スピリッツ」というのが当社のキーワードにあるのですが、こういうところにも息づいていると思います。

船川: 受付にある電話を取って名前を言ったら「おまちしておりました。」って。これはね、率直に気持ちが良いですね。嬉しい以外何も無いですよ。だから、なんだろうな、別にどなたですかって聞かれてもこうこうこうですって言うんですけれど、やっぱり、ありがたい以外言葉が見つからない。

海外から視察団が来たら通訳いつでも手伝いますよ。(笑)

遠藤: とても心強い支援ですが、そんな贅沢な頼み方ないですよ(笑)

船川: いやいや。もうだって、そういう時にパワープレゼンテーション出来ればかっこいいじゃないですか。

写真:グローバルにおもてなし

#1 トランスカルチャーがグローバルへの第一歩
#2 “分けて”考えればグローバルは“分かる”
#3 “ボーダー(境界線)”を越えるのは驚きと強気
#4 “等身大”で右へならえから脱する

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